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仙台高等裁判所 昭和31年(ム)2号 判決 1956年4月17日

再審原告 竹内郷助

再審被告 佐藤恭助

主文

本件再審の訴を却下する。

再審訴訟費用は再審原告の負担とする。

理由

本件再審申立の理由は別紙記載のとおりである。

案ずるに本件は秋田地方裁判所が同庁昭和三十年(レ)第五号土地所有権確認請求控訴事件につき、同年四月二十七日言渡した判決(第二審判決で上告なくして確定)に対する再審の訴に対し、同裁判所が同年七月二十日再審の訴却下の判決を言渡したところ、再審原告から上告の申立があつたので当裁判所は昭和三十年十二月二十七日上告棄却の判決を言渡したものである。然るに再審原告は昭和三十一年二月七日右上告判決に対し更に再審の訴を提起したので、当裁判所は審理の結果同月二十八日再審の訴却下の判決を言渡したのであるが、再審原告は更に本件再審の訴を提出したのである。おもうに再審の訴は確定の終局判決に一定の瑕疵あることを理由としてその判決を取消し訴訟を瑕疵ある判決前の原状に復して更に弁論及び裁判をなすことを求める申立であり、その訴訟手続には民事訴訟法第四二三条によつてその性質に反しない限り再始すべき審級における訴訟手続に関する規定を準用すベきものであるから、再審判決に対する不服の申立も亦その審級に応じて為さるべきものといわなければならない。然るに当裁判所のなした前示再審判決は上告裁判所のなした再審判決であること前叙説明のとおりであるから、これに対してはもはや上訴の途はないことは勿論、更に再審の訴を提起することはできないものといわねばならない。よつて本件再審の訴は不適法として却下を免れない。

しかのみならず、本件における再審原告の不服の理由記載によれば、(一)再審原告は今猶前叙控訴審たる秋田地方裁判所において提出した昭和三十年二月一日附請求変更の申立書記載の事実を陳述したと主張するのであるが、右請求変更の申立書に基く陳述を口頭弁論でしていないことは当裁判所の既に説明を尽しているところである。再審原告は請求変更申立書に基く陳述をしていることは控訴審の口頭弁論調書で明かであり、控訴審でなした再審原告の陳述は控訴状を補足した新訴につきなしたものであつて、既に消滅した旧訴につき陳述したこともないし、あるべき道理もないと主張するけれとも、記録を精査しても再審原告が前示口頭弁論でかゝる陳述をした旨の記載はないのであるから、再審原告の右主張は採用することはできない。(二)所論準備書面についての判断遺脱や民事訴訟法第四二〇条第一項第二号第四二一条該当等の主張に至つては、記録を精査してみても本件には所論のような違法はないのである、蓋し昭和三十年十一月二十八日附以降の準備書面四通はいずれも民事訴訟法第三九八条所定の期間を経過した後において提出したものであるから、かゝる主張について説明を与えないのは寧ろ当然である(大審院昭和四年(オ)第六一五号同年十二月十二日第一民事部判決参照)。要するに所論はすべて民事訴訟法の解釈に関し独自の見解を展開して前記判決を論難するに帰し、到底採用するわけには行かない。

そこで本件再審申立は不適法として却下すべく、再審費用につき民事訴訟第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

不服の理由

一、判決理由は論旨一、三、についてと題し

原告が昭和三十年二月一日附で原審に提出した請求変更の申立につき判断を遺脱した違法があると言ふにあるところこの点に関しては当裁判所の為した上告判決は「控訴審の口頭弁論では右書面に基く何等の陳述をもして居ないのであるから控訴審裁判所が右書面記載の新請求について判断をしなかつたのはもとより当然であつて原審がこのような変更のないことは当裁判所に明らかである」として上告人の主張を排斥したからとて少しも違法ではないと述べて居るが原告の控訴審に於て陳述したのは現在する訴訟即ち請求変更後の新訴につきて控訴裁判長の審問につき陳述したるものであり現在せざる既に消滅したる旧訴につきて陳述したる覚はない且控訴裁判長はその口頭弁論を指揮するに当り現に繋続する訴訟につきて審問したること当然にして既に消滅したる旧訴につきて審問したりとせば誤謬も甚しいと言ふべきである。控訴審の口頭弁論調書に明らかなるが如く原告の控訴裁判長の審問に対する陳述は請求変更申立の理由の第一に於て述べたる地域に関聯する審問なりと思惟して陳述したる処にして消滅したる旧訴につき控訴裁判長が審問したりとは条理上考へられない上告判決も亦この不条理を是認するが如き言辞あるは原告の甚だ遺憾とする処でありこの点は民事訴訟法第四百二十条第一項第九号に該当する事明らかである。

二、前述の次に「当時控訴人は控訴状に基いて控訴の趣旨を陳述し」とあるが原告の控訴審に於て為したる陳述は請求変更の申立により控訴状を補足変更なしたる新訴につき為したる陳述であり既に消滅したる旧訴につき陳述を為したる事はないし又有るべき道理もない。

三、前述の次に「所論請求の変更申立書に基く陳述は毫もして居らない事が認められるのであるから」と述べて居るが原告の控訴審に於て為したる陳述は請求変更後の陳述であり請求変更前には口頭弁論開廷されなかつたし開延された口頭弁論は昭和三十年三月三十日であり控訴裁判所は原告の同年二月一日に発送したる請求変更申立書を二月二日に受理し二月十八日に被告に送達を了して居る。開廷されたる裁判は請求変更後の新訴につきての裁判であり旧訴につきて口頭弁論の開廷された事は無い。

四、「原審に於ける再審判決でも当裁判所に於ける上告判決でもその点の論旨に対し同趣旨の判断を与えたことは前示の通りで明かである」と述べて居るが原審控訴判決原審再審判決及上告判決がその点の論旨に対し同趣旨の判断を与へ請求変更前の旧訴につき判決を為すと言ふは現存せざる訴訟に対する判決であり、いずれの判決も判断の遺脱である事論を俟たざる処である。前記一乃至四に記したる処は民事訴訟法第四百二十条第一項第九号に該当するものである。

五、その余の所論準備書面四通の如きは民事上告事件等訴訟手続規則第七条による上告理由書提出期間後に提出されたものであつて当裁判所がこれにつき何等の判断をしなかつたのはもとより当然である」と述べて居るが前記規則第七条に言ふ処は単に上告理由書の提出期間を示したものであり準備書面の提出期間をも制限したるものでは無い。準備書面の提出期間につきては民事訴訟法第二百四十三条第一項第二項の規定が明かに存在するのであつて上告理由書と準備書面とを同一視する事は何等法典上に根拠が無い。これ又民事訴訟法第四百二十条第一項第九号に該当する。

六、判決理由は同二、についてと題して

「記録を精査しても当裁判所の為した上告判決には所論のような違法が無いから論旨は理由が無い」と述べて居るが御庁の為したる上告判決そのものを違法があるとは申立て居ない民事訴訟法第四百二十条第一項第二号同法第四百二十一条に該当すると述べて基本となりたる再審判決の無効を述べて居るのである事明かである。尚書記官補に付きては同法第四十四条に因り同法第三十五条第六号に該当する結果同様同法第四百二十条第一項第二号に該当する。

(書記に付き同条第一号に該当すると為したるは違論ある処なるにつき茲には第二号と訂正し置く)

七、上告再審判決は再審の訴状だけにつき判決を為して居るが訴状提出後に於て訴の変更、拡張、抛棄、認諾、一部取下、等々の場合の存するは法の明示する処であり判決は訴の全趣旨に対する判決であるべきである。御庁昭和三十一年(ム)第一号には訴状の外に再審の訴不服理由追加申立書(二月二十日郵送)準備書面其ノ一(二月十六日郵送)準備書面其ノ二(二月十九日郵送)同其ノ三(二月十九日郵送)同其ノ四(二月二十二日郵送)同其ノ五(二月二十四日郵送)都合七書類ノ陳述の全趣旨を鑑みて判決を為すべくこれ等の書類を判断の外に置きたるはこれ又民事訴訟法第四百二十条第一項第九号に該当するものである。

八、御庁昭和三十年(ツ)第二五号判決と昭和三十一年(ム)第一号判決との間には民事訴訟法第四百二十条第一項第二号に該当する事由の存する事明かであり原告は茲に再審の訴を為す。

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